シェイズ・オブ・エコーズ, オーボエ/イングリッシュホルンとアンサンブルのための
EDIZIONI SUVINI ZERBONI MILANO
SCORE
AUDIO
Oboe (English Horn) Solo, 1.0.1.1. – 1.1.1.1. – Perc.: [Bass drum, Snare drum, Tt., Vibr., Crot., 3 Temple bowls, Rin, Tp., Hyoshigi, 4 Mokusho, Holz Trommel] – Ar. – Pf. – A.: 1.1.1.1.1.委嘱:エルンスト・フォン・シーメンス音楽財団助成、ケルン・アハトブリュッケン音楽祭
ピーター・ヴィール氏に捧ぐ
オーボエ、イングリッシュホルン独奏:ピーター・ヴィール
アンサンブル・ムジーク・ファブリーク
指揮 : ヨルゴス・ジアヴラス
世界初演 : 2022年5月1日 ケルン・フィルハーモニー、ACHT BRÜCKEN | Musik für Köln
演奏時間 : 約20分30秒
録音:西ドイツ放送局
シェイズ・オブ・エコーズは、2018年に、オーボエ奏者ピーター・ヴィール氏のために作曲し、献呈したオーボエ独奏曲「泣き龍(フラッター・エコー)」をコンチェルトに発展させた作品です。委嘱者であるケルン・アハトブリュッケン音楽祭から「記憶と忘却」をテーマにした作品を依頼されて作曲しました。
独奏曲で、音の多重反射により起こる音響現象「フラッター・エコー」からインスピレーションを得て、音楽的素材として用いたのに対し、協奏曲シェイズ・オブ・エコーズでは、もう一つの音響現象「共鳴(Sympathetic resonance)」を音楽的素材として加え発展させています。
まだ学生だった頃、京都の相国寺の法堂を訪れ狩野光信の雲龍図を見せていただいたことがあります。雲龍図の真下で、手を叩くと、龍が鳴き声をあげたかのような音が反響し、その時初めて「鳴き龍」と呼ばれる現象を認識しました。オーボエの音色は、私にとって、生き物の鳴き声のようなイメージがあります。またピーター・ヴィール氏が得意とするマルチフォニクス(重音)は、時に色鮮やかな中積雲のように濃淡とともに、時に巻雲のような透明感とともに響きます。
雲龍図と鳴き龍現象から着想を得て作曲した作品が独奏曲「泣き龍(フラッター・エコー)」で、音の多重反射をオーボエの異なる運指で同じ音高を奏でるビズビグリアンドで、天空に広がる雲をマルチフォニクス(重音)で表現しています。
一方、協奏曲では、先の「泣き龍(フラッター・エコー)」現象に、ソリスト以外の木管楽器、金管楽器、打楽器の磬子(大きな凛)から発せられる振動(音高)に、スネアドラムの響き線を共鳴させ、共鳴音の層を作り出すとともに、共振の周期(パルス)を作品のリズムの構成要素として加えました。
ソリストから奏でられる音、モチーフ、音楽的ジェスチャーは、他の楽器群によって、時に即座に、時に忘れた頃、木霊のように奏でられます。楽器群から先に奏でられたモチーフを、ソリストが木霊のように追いかけることもあります。スネアの響き線は、時に鋭く、時には長い時間共鳴することにより、音の持つ自由な意思と「音はエネルギーである」という事実を私たちに体感させてくれます。
オーボエ/イングリッシュホルンとアンサンブルのための「シェイズ・オブ・エコーズ」は、オーボエ奏者ピーター・ヴィール氏との長年のコラボレーションの結果生まれた作品で、同氏に捧げられています。
岸野 末利加(ケルンにて、2022年3月25日)