作品リスト

チェロとオーケストラのための What the Thunder Said / 雷神の言葉

西ドイツ放送委嘱作品

チェリスト、オレン・シェブリンに捧ぐ

オレン・シェブリン(チェロソロ)

クリスティアン・マチェラル(指揮)

ケルンWDR交響楽団

世界初演2021年11月12日ケルンフィルハーモニー

世界初演放送2021年11月26日西ドイツ放送番組TonArt

演奏時間7分30秒

VIDEO

「What the Thunder Said / 雷神の言葉」は、2021年5月から始まった西ドイツ放送の新しい演奏会シリーズ「Miniaturen der Zeit(現代のミニアチュール)」のために作曲したものです。このシリーズでは、毎月異なる作曲家が現代の社会事象をテーマにオーケストラ曲を作り、ケルンWDR交響楽団によって世界初演・放送されます。また、作品の完成までの過程と作曲家に焦点を当てた短い番組が、5回にわたり同放送局の「TonArt」という番組で紹介されます。

作品を委嘱されたのは、ドイツで2回目のロックダウン(都市封鎖)が始まった2020年の11月でした。この期間中、オーケストの演奏人数が大幅に縮小され、演奏会は無観客で、ライブストリーミングや動画配信、放送という形に制限されていました。「What the Thunder Said / 雷神の言葉」は、パンデミックがいつまで続くか定かでない状況の中、

  • 小規模な編成
  • オーケストラのクラシックコンサートのプログラムに挿入しやすい演奏時間
  • 早く仕上げること

という条件のもとに生まれました。

以下、作品解説です。

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チェロとオーケストラのための

What the Thunder Said/ 雷神の言葉

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まって以来、以前にも増して、私たちの周りに目に見えない様々な境界線が張り巡らされていると感じるようになりました。

私にとってそれは、あたかも干ばつによって乾燥した大地がひび割れていくかのようなイメージです。水が不足し、大地に亀裂が走り粉々になっていく……。何度かのロックダウンを経験し、私たち人間が社会的な生き物であること、個の自由と帰属意識の両方を切望する存在であることを実感しました。

「What the Thunder Said / 雷神の言葉」は、百年前にT.S.エリオットによって書かれた詩『荒地(The Waste Land)』最終章のタイトルです。エリオットは、スペイン風邪と第一次世界大戦で荒廃した当時のヨーロッパでこの詩を書きました。そして、百年後の今、パンデミック、気候災害、人種、宗教、経済の様々な問題を抱える現在の世界の状況を映しています。

詩全体を通して、「水」のモチーフが暗喩として大切な役割を果たしています。水は豊穣や再生の象徴になりますが、多すぎると洪水となり災害を引き起こします。エリオットの詩では、水不足がテーマとなっています。

乾いた荒れ果てた大地を進む旅人。そこにあるのは岩だけで、水がない。旅人は渇きのあまり幻覚を見ます。「もし、そこに水があれば、せめて岩を超える水の音があれば、ツグミが松の上にとまって鳴くことだろう。ポトン、ポトリ、ポトン、ポトリ」でも水はない……。やがて長い旅の最後に、ガンジス川に湿った風が吹き、雷が鳴る。それは、雨の兆しであり、希望の兆しでもあり、詩は「シャンティ(心の平安)」を三回繰り返し終わります。

この詩からインスピレーションを得た私の作品「What the Thunder Said /雷神の言葉」では、岩、乾き、水滴、幻覚、湿気、雷などのモチーフを音楽の素材として用いています。曲は、乾いた大地に亀裂が走るイメージのピチカートとジェッタートによるチェロソロで始まります。上述した音の素材によって、バラバラに孤立した個が、バランスを取り戻しながらグループを成し、時に孤立状態に戻りながらも、社会を再形成していく様子を描いています。

オーケストラは、3層に分かれ、それぞれ次の事象や概念を象徴しています。

1)チェロソロ:壊れた断片、個

2)いくつかの楽器群:個の集まり、グループ

3)トゥッティ:連帯、共存、再生

この作品を作曲している間も、世界の状況は絶えず変化しています。パンデミックだけではなく、自然災害、危機、そして多くの紛争が世界中で発生しています。

私たちすべての存在に「水」が必要とされています。

「What the Thunder Said / 雷神の言葉」は、西ドイツ放送の委嘱で、コンサートシリーズ「Miniaturen der Zeit(現代のミニアチュール)」のためにのために作曲しました。この作品は、チェリスト、オレン・シェブリンに捧げたものです。

(ケルンにて、2021年夏、岸野末利加)