Shades of Ochre„シェーズ オブ オーカー”(2017)
オーケストラのため
EDIZIONI SUVINI ZERBONI-MILANO
SCORE
NHK交響楽団委嘱
初演:2017年6月7日、ミュージック・トモロウ2017, 東京オペラシティ
演奏:NHK交響楽団
指揮:ローレンス・レネス
21分.
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オークルの陰影
赤、オレンジ、金色、時には紫 - 燃え上がるような色彩を放つオーカーの層。
学生だった頃訪れた南仏ルシヨンで目にしたオーカーの鉱脈の光景は今でも忘れることができま
せん。オーカーは赤土や黄土とよばれ、酸化鉄を多く含む色彩豊かな土です。
先史時代から人類はオーカーの持つ色に魅了され, 世界各地で顔料や絵の具として、時には体に塗
り、時には洞窟壁画のために利用してきました。
顔料が特定の波長を反射したり吸収した結果、そのスペクトルが人の目に特定の色と感じられ
るように、音の周波数成分が音色として私たちの耳に伝わります。
「Shades of ochre」(オークルの陰影)では、律動や縦の響き、横への流れに加え、音の色合い
とコントラストを作品の構成要素としています。私にとってオーケストラは、豊かな色彩と大き
なエネルギーを生み出す母胎のようです。光の当たり具合、時間、角度の違いにより異なる印象
を与えるオーカー層のように、絶えず様相を変化させながら展開していく音の有機体を生み出し
たいと思いました。
また作品を構築していくにあたり、土の粒子を思わせるビズビグリアンド(Bisbigliando, ほぼ
同じ音高で音色の異なる音)の音群とグリッサンドを主な素材とし、二十分強の時間のカンバス
(画布)に、顔料を飛び散らせ、塗り付け、垂らすことにより一種の絵画を描き上げたいと思い
ました。このジェスチャーは、様々な楽器の組み合わせやテンポの変化によって、拡大されたり
縮小されたりしながら展開していきます。例えば鑑賞者が、離れたところからは全体の構成を、
作品のすぐそばからモチーフの細部の色合いや息づかいを楽しめるジャクソン・ポロックの作品
のように、焦点を変えることにより素材が異なる趣や様相を持って浮かび上がってくる。。。そ
んなイメージを念頭にこの作品を作曲しました。
(ケルンにて、2017年4月、岸野 末利加)