作品リスト

Monochromer Garten V„単彩の庭 V“ (2012)

箏独奏曲
EDIZIONI SUVINI ZERBONI – MILANO
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「箏独奏曲 Monochromer Garten V / 単彩の庭 V」(2012)
この作品は、私が独奏から三重奏までの小さな編成 のために書いている一連の作品群『Monochromer Garten』の第五作目で、大谷祥子氏の為に書かれ、2013年7月9日に〈吉村七重プロデュース邦楽展Vol.25〉にて同氏により初演されました。 『Monochromer Garten』はドイツ語で、単彩(モノクロ)の庭を意味し、同作品シリーズでは、日本庭園の持つ特徴と美感、その作庭過程と空間構築を音と時間によって 再現することを意図しています。
『銀世界』『闇』『雪に反射する光』『静寂』『深い空間』…ある冬の夜、京都の寺の窓からのぞいた庭の風景は、あ たかも黒と白のコントラストが織りなす墨絵のようでした。その景色の美しさは、私の胸を打つにとどまらず、「何故、私はそこに美を感じるのだろう?」「こ の庭の美を構成する要素は何なのだろう?」という根本的な問いを投げかけてきました。哲学者であり仏教学者でもあった久松真一氏(1889-1980)は その著書の中で、日本文化の美術(ファインアート)の特徴として次の七つの性格を挙げています。1)不均斉 2)簡素 3)枯高 4)自然 5)幽玄  6)脱俗 7)静寂この七つの性格は「そのいずれを欠いても完全とは言えない」もの、また「本来別々のものではなくて一つのものの属性である」としていま す。『単彩の庭』シリーズでは、音素材により時間を構築し音楽を作り上げる作曲のプロセスを、石や植物によって空間を構築する日本庭園の作庭として捉えて います。選び抜かれた僅かな素材により豊かな空間を生み出し、作り手の精神世界を表現する…そのような作業を、音を通じて行いたいと思ったからです。そし て、これらの一連の作品群は、一作品一作品が私にとって、より深い層に到達するための挑戦でもあるのです。
 箏独奏曲『単彩の庭 V』では、十七絃箏の持つ『深く低い響き』『豊かな音色』、太く長い絃から奏でられる『余韻』『イントネーション』『力強さ』といった特性と、十三絃箏が 持つ『色彩』や『官能性』を音素材として生かしたいと思いました。二つの箏は 時に独立した個々の楽器として、時に融合した一つの楽器として扱われていま す。 両楽器から生み出される音素材の構築により、私なりの美の世界を作り上げ、より深遠な部分に到達したいと願いました。
(2013年7月9日すみだトリフォニー小ホールにて大谷祥子氏により初演)