ヴォルケンアトラス (雲の地図) 3つのグループに分かれたオーケストラのための
EDIZIONI SUVINI ZERBONI MILANO
AUDIO
SCORE
3.3.3.3. - 4.3.3.1. - Tp. - 4 Perc. - Ar. - Pf. e Cel. [1 es.] - A.: 14.12.10.8.6.
南西ドイツ放送委嘱
指揮 :バス・ヴィガース
南西ドイツ放送交響楽団
世界初演 : 2022年10月16日ドナウエシンゲン音楽祭
南西ドイツ放送交響楽団最終演奏会。Baar-体育館にて
演奏時間 : 約13分45秒
録音:南西ドイツ放送局
「星はいくつあるんだろう?」「雲はいくつあるんだろう?」これらは、子どもたちの典型的なの疑問です。と同時に、この疑問は深く考えれば考えるほど、興味深いことに気づかされる魅力的な問いかけです。
天才数学者にして「サイバネティックス」の始祖、ノーバート・ウィーナー(1894-1964)は1948年に出版された画期的な著書『サイバネティックス』(独語版『Kybernetik』1968年)の冒頭で、子供のための、あるドイツ民謡を紹介しました。誰もが口ずさめるこの歌は、驚くほどの深みをもっています。
「青い大空に、輝く星がいくつあるか知ってる?
空を流れる雲がいくつあるか知ってる?
星も雲も数え切れないほどたくさんあるけど、
一つも数え残しがないように、神様は数えられたんだよ。」
ここで「神様」を「天文学者」と「気象学者」に置き換えても歌の意味は同じです。
なぜなら、問いはそのままで、それに答えようとする意志も同じだからです。
では、星はいくつあるのでしょうか?それに対する答えは、「天文学者」が持っています。肉眼では、約6500個の星がはっきりと見え、望遠鏡を使えばさらに多くの星を見ることができます。現在、宇宙望遠鏡「ガイアDR3」は18億個の天体を収録しています。気の遠くなるような数の恒星。。。。しかし基本的にすべての星を数えることができます。これに対して雲は?雲に対する答えは「気象学者」が持っています。しかし空を流れる雲を数えることは不可能です。
ノーバート・ウィーナーは、星のように「数えられる物体」と、雲のように「プロセスによってのみ認識できる物体」との極性を明らかにしました。
私は。この「プロセスによってのみ認識可能な物体」というアイディアから、インスピレーションを得て、「ヴォルケンアトラス」を作曲し始めました。音を通して、流れる雲の地図を描きたいと思ったのです。
音楽は、「無形」の状態から、起こりうるすべての遷移、プロセスを表現することができます。音により瞬間と瞬間の間の流れ、無限のニュアンス、ダイナミクス、絶え間ない変化などが生まれ消えていきます。
雲は絶えず変化し、いわし雲、うろこ雲、まだら雲、しわしわ雲、あばた雲、泡沫雲、きらめき雲、筋雲、鉢巻き雲...といったように、無限の形で私たちの目に入ります。「国際雲図帳」では、27種類の雲を低層雲(層雲)、中層雲(高積雲)、高層雲(巻雲)の3段階の高度に分け、大きく10種類に分類しています。
私の作品「ヴォルケンアトラス」では、巨大なパレットで、白とグレーの間の無限の色調、形と多様性、その変幻自在性を音で表現したいと思いました。ステージ上のオーケストラは、層雲(低い雲)、高積雲(中間の雲)、巻雲(高い雲)の3つのグループに分けられ、それぞれのグループは特定の音質、独自のテンポ、時間経過、独自の性質、方向、形状、ジェスチャーを持っていて、音の層は秩序と混沌の間を流れ、時に重なり合い、時に分離する...。
音を使って自分の雲図帳を作るという作業は、私にとってとても魅力的なことでした。はっきりしていたのは、この雲図は、音によって作られる音楽作品であり、科学的な概念やコンセプトだけではないということです。そして「音に潜む力、「音」の持つ可能性を引き出したいと強く思いました。「音」は一旦自由を得るとそれ自身の生命を育み、それ自身の原動力に従うからです。私は、作曲家として「音」から学びながら、「音」の流れを導き、作品として形作りました。
最後に。雲は「はかなさ」を象徴する存在でもあります。でも、もし雲がなければ、私たちは、どうなるのでしょうか?
(プログラムノート。2022年6月25日 岸野 末利加)