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172月 2022

第69回尾高作曲賞受賞、チェロとオーケストラのためのWhat the Thunder Said / 雷神の言葉 (2021)

第69回尾高賞 受賞によせて  岸野 末利加

この度、チェロとオーケストラのための「What the Thunder Said / 雷神の言葉」を尾高賞に選出いただき心から御礼申し上げます。

この作品は、ドイツで2回目の都市封鎖が始まった2020年の11月に、西ドイツ放送から「時代のミニアチュール」というコンサートシリーズのために委嘱され、チェリスト、オレン・シェブリン氏とケルンWDR交響楽団のために作曲しました。パンデミックがいつまで続くかわからない状況下で、1)現代の社会事象をテーマにすること、2) 小規模な編成、3) 短い演奏時間、4)早く仕上げること、という条件のもと生まれた曲で、 今後展開させる予定の「チェロ協奏曲」の一楽章です。

「社会事象」という具体的なテーマを「音」という抽象的なもので表現することは、私にとってチャレンジでした。そんな中、百年前にT.S.エリオットによって書かれた『荒地(The Waste Land)』に出会いました。「What the Thunder Said」は、この詩の最終章のタイトルです。

スペイン風邪と第一次世界大戦で荒廃した当時のヨーロッパで書かれた美しい詩は、百年後の今、パンデミック、気候災害、人種、宗教、経済の様々な問題を抱える現在の世界の状況を映しています。

乾いた大地に亀裂が走りひび割れるイメージのチェロソロで始まるこの曲は、詩で使われた、岩、乾き、水滴、幻覚、湿気、雷などのモチーフを音楽の素材にし、バラバラの断片(個)が、バランスを取り戻しながらグループを成し、時に孤立状態に戻りながらも、社会を再生する方向に向かって「雨=希望」の兆しを見いだす様子を描いています。

私自身、何度かのロックダウンの経験から、人間が社会的な生き物であること、個の自由と帰属意識の両方を切望する存在であることを改めて痛感させられました。

作曲し始めた当時の、無観客、動画配信、放送という形 の演奏会状況を思い起こすと、今回この作品が、尾高賞を受賞しNHK交響楽団によって再演されることは、感激もひとしおです。関係者の皆様、どうもありがとうございました。

最後に、私の作品の良き理解者・助言者で『荒地』を紹介してくれたゼルボーニ音楽出版のガブリエル・ボノモ氏、作品の準備段階から初演まで、私がイメージする音を共に探求し、多くのインスピレーションを与えてくれたオーレン・シェブリン氏、私の作曲活動をいつも励ましてくれる家族に心からの感謝を捧げます。

(2022年1月18日 京都にて)

https://www.nhkso.or.jp/concert/20220701.html